温泉再考【9】 有馬と城崎

 

温泉には、それぞれ泉才と呼ばれるものがあります。その温泉の持つ才能、性質をあらわすもので、それが違えば温泉の効能は変わってきます。
今回は古人の臨床例をもってその才を検証しようと思います。
病人は瘡腫と呼ばれる病を患っていました。瘡腫とは体内で生じた湿毒や古くなった血毒が停滞し、手や足が腫れて痛む病です。
時には膿汁を出したりします。その内毒が骨にまで到達すると難治となってしまいます。
その患者は先ず城崎温泉に入浴します。
しばらく続けると「瘡腫快く癒えて痕無し、或いは一年、或いは半年、復発す」と湯治に行けば治るのだが、しばらくするとまた再発するというのです。
そこで今度は有馬温泉を勧めます。すると「其の瘡、大いに発顕し、瘡腫益々排出す」とあります。
その後さらに腫れがひどくなり大いに痛み、膿汁を多く排出するに至って痛みが激減したといいます。
この違いは両温泉の泉才によるものなのです。
古人は城崎温泉は「皮表の膿汁を化和する」もので、有馬温泉は「内伏の毒を排出する」ものだからと説明しています。
現代では成分分析により含有物がよくわかるようになりました。
上に出ていた二つの温泉、城崎温泉はナトリウムカルシウム‐塩化物高温泉、有馬温泉は含鉄ナトリウム‐塩化物強塩高温泉という表示になっています。
両方とも鹹(しお)湯ですが、有馬には鉄が含まれています。
鉄は「人体の肝と腎に働きかけてオ血(古い血)を散らし、丹毒を取り除く」という作用があります。また鹹(塩)は「堅いものやわらかくする」作用があります。
鉄と塩とで体内の伏毒を動き易くしたために、瘡腫が皮表に排出されてきて一度はひどくなり、その後に痛みが改善するという経過をとったというわけです。