温泉再考【8】 家温泉

 

これまで東洋医学の世界において温泉とはどのようなものか。そしてどのような効果があるのか。
入浴するのに最も適した状態、最も効果のある入浴法、注意すべきことを順に紹介してきました。
これらは、口伝えで伝承されてきた温泉の利用法をまとめた画期的な温泉治療論であります。現代でも十分通用します。
しかし当時の生活環境を考えるにこの温泉の恩恵を受けることのできた方は多くなかったと推測されます。
なぜなら、温泉地に足を運ぶのにかかる時間、旅費などを考えるとそうそう行けるものではないと思われるからです。
現にそのような患者さんが多くいたようで、江戸時代の先生方も考えたのでしょう、家温泉なるものがあります。
「天下の火で天下の水を温め、天下の金石類で和せば、真の温泉を髣髴させるものができる」とこう述べています。
つまり日常用いる火と水、金属や石で温泉を作ろうという発想です。温泉に含まれるものは前に紹介した硫黄を始め、鉄、明礬などがありますからそれを使うわけです。
この方法、確かに温泉地から遠く離れた方にとって温泉を一時身近なものとするでしょうが、とても手間がかかりそうです。
また人為的にそういうことができるのかとにわかには信じがたいという方もいたようです。
そこで宇津木昆台という医者が目をつけたのが「湯の花」です。
当時、湯の花は煎じた後の生薬のように効果が出尽くしたものと考える説もあったのですが、
「温泉に含有されている金石類が温泉の火力の為に煎練されて、固まったもの」として効果があるはずだと家温泉に利用しました。
その効果は真の温泉には劣るけれども、半ば以上の効果を挙げたと述べています。
現代でも湯の花を製造している温泉地は多いのですが、硫黄などの硫化物を含む湯の花は風呂釜を傷つけるようで、ユニットバス以外では使用できないようです。