温泉再考【10】 泉才の弁別

 

各温泉の持つ力を温泉の才能、「泉才」と古人は呼んでいます。
前回は当時、有馬温泉と城崎温泉に湯治にいった患者さんの身体の変化の違いをもってその泉才を検証しました。
では、その他の温泉についてはどうでしょうか。古書にはいくつかほどしか記載がありません。
それもそのはず、当時あちこちの温泉にまで行ってその泉才を検証するには莫大な労力を必要としたからです。
古書の中で紀州湯の峰温泉と相州箱根の芦の湯温泉とが同じ作用をもつと分析されています。
古書には「その色は白くて潔く、味は少し鹹味がありそして甘い」とあり、
「入浴した後には、体は乾燥して入浴前のようだ」と当時はこのように分析していました。
湯の峰温泉は和歌山県の温泉で、箱根芦の湯は神奈川県にあります。この二つの温泉、実は古人の分析どおり、成分が重なる点が多いのです。
現代の温泉分析によると、湯の峰温泉は含硫黄‐ナトリウム‐炭酸水素塩泉、
芦の湯温泉は含硫黄-カルシウム・ナトリウム・マグネシウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉とあります。
古人が味で確かめたとおり、両方とも塩泉ですし、硫黄を含む点も同じです。
もう一つ、成分表示からはわかりませんが、両方とも重曹を含みます。
重曹泉は別名「美人の湯」です。入浴後、肌がツルツルになるという状態を乾燥して肌触りが滑らかだという表現をしたのでしょう。
このように見ると現代的な成分分析だけでなく漢方学的考察でも温泉それぞれの具体的な効能が判明することがよくわかります。
古人は「其の才気、臭い、味、色を実際に入浴して調べることができなくても、その含有するところのものを検してこれを推測すればいいのである」と述べています。