温泉再考【5】 硫黄と温泉

 

「温泉は硫黄が沸かしている」
これは古人が、なぜあのように熱い温度で温泉が噴き出してくるかということを考えて述べた言葉です。
日本全国を見渡せば、必ずしも硫黄が存在するとは限りませんので、もちろんそんなことはないのですが、日本のような火山の多い土地柄では、温泉とともに硫黄が産出するところが多いのです。
そこで、硫黄や他の鉱産物が温泉を沸かしているのではなくて硫黄も温泉と同じ過程で産出するという説が立てられます。
「温泉が地中に集まった陽の気が水脈と出会い湧き出たものならば、硫黄はその地中の熱が大地の中の膏液をいぶし、蒸し、凝らすことによってできるものである」というのがその説です。
「温泉も硫黄も同じ地中に集まってきた陽の気が熱と化し、その熱によってできたものだから、同じところにあってもおかしくはないし、もし温泉のあるところに硫黄がなくても、大地のなかに硫黄の元となる物がなければできないのだからこれもおかしくはない」とこのように考えたわけです。
そしてこの硫黄は泉才(温泉の個性を決める成分)のなかでも取り分け重要視されています。
この硫黄が以上のように大地の中の陽の気によって作り出されるとの説に至ったのには、硫黄の性質がまじりっけのない純粋な陽の物質で、人体中の陽気の源である命門の火を助け、温める作用が強いと古人たちが考えていたからです。<br>
温泉の作用をより助けることができる成分だということが他の鉱産物と違い重要視された理由だと考えられます。
水と火の交じり合った温泉、そして硫黄、これらがそろってこそ温泉だと言い切った古人もいたほどです。
今の温泉成分表記を詳しくみると硫黄やその化合物の名前がよく出てきますよ。