東洋の蔵府【16】 五蔵と五労 その二

五労とは、字の如く労働のことです。ここでは、五蔵の正気を消耗させる労働のことを言います。今回は脾、肺、腎の「労」についてです。
「久しく坐せば、脾を傷る」と言われています。脾蔵の働きは消化に関することが主となっています。脾蔵と胃は、すり鉢とすり棒のようなもので、この二つがしっかりと飲食物をこなすことで消化がうまくいきます。
長い間、座っているということは、すり棒が動かないという状況と考えて下さい。ですので、飲食物がこなれずに、腹部で停滞を起こしてしまうわけです。そうなってしまうと脾蔵に負担がかかっていくので、正気が弱るということになります。
肺は「久しく臥する」ことで消耗すると古典にはあります。肺は呼吸を行なうことで上から下へと気を行き渡らせる蔵です。そのため気を司る蔵であると言われています。
この上下の気の循環は天から大地、大地から天へと循環する自然界の働きに従っています。人間でいうと頭から下半身へという流れが自然なわけですが、それが臥する、つまり横になっている状態で、それを行なうには自然界とはまた別の気の方向性になってしまうわけです。そのため、肺の気を流動させる働きに余計な負担がかかるということになってしまいます。
最後は腎です。腎は「久しく立つ」という労働がその正気を消耗させます。立位の姿勢を保つのは筋肉よりも骨の強度が重要になります。
この骨は蔵府のある体幹部分を除いて身体の最も深層にある器官です。東洋医学においては骨の中の髄に、腎臓から精が運ばれてくることにより、その強度を保っていると考えています。つまり長い間の立位は腎蔵の精を消耗するということになり、結果的に腎が疲労してしまうのです。