東洋の蔵府【番外編】 脉診の科学

東洋の蔵府【番外編】 脉診の科学

脉診は手首の脉を指の感覚で捉えて、その状態から身体の内部の状態を診ようというものです。そこには、二十七種類の脉の形や、脉の流れるルートの変化といった要素があります。
脉診は東洋医学の診察法の中で最も重要なものでありますが、先程の二十七種類の脉やそのルートを判別するのは、施術者の指の感覚です。これは訓練を行えば、必ず判別がつくようになります。
そして、そこから得た情報を、他の診察法(腹診など)と合わせ、東洋医学的な判断を下し、治療を行うことで、脉は変化し、病状が好転することは、実際の臨床で確認されている事実であります。
ただ、その微妙な感覚を誰もが判るようにしなさいという科学の視点においては、曖昧なものであると言わざるを得ません。この脉診を科学で解明しようとするのに、脈波計という機器で判定するという方法をとった研究があります。
その結果を視覚的に図示した書籍も出版されており、初学者が脉診を学ぶのに役立っています。当時、かなり画期的な研究であったものです。
その研究で検証したのは指尖脉波によって調べるというものですが、脉診で調べている手首の動脈には、心臓から送られてきた血流があります。ですので、脉診には心電図や血圧といったものも関わってきます。また脈波計には圧脈波と加速度脈波というものがあり、それぞれが違うものを見ていることなります。
これらを一度に計測する機会が独立行政法人である豊中の刀根山病院の依頼によってめぐってきました。先ほどの書籍の検証は加速度脈波のみの検証ですので、これにより、さらに統合的なデータをとることができると考えています。
指の感覚の微妙な違いを、計測値で解析するのは、まだ先の話ですが、現段階のデータ解析に基づいた妙鍼堂の見解を紹介します。それは、脉診時の姿勢についてです。妙鍼堂では、治療の最初に座った状態で脉診をします。この姿勢には治療院によって違いがあり、寝た状態で脉診をするところもあります。
妙鍼堂で座った状態を主とするのは、陰陽の法則に法るためです。人間を含むあらゆる生物は天と地という果てもなく大きな陰と陽の間に位置しています。
生物の中の人を代表させて天人地と言いますが、天が陽で上にあり、大地が陰で下にあるという状態があるべき姿であるならば、その間に存在する生物及び人体のあるべき姿もそうであるのです。つまり、頭が陽であり、下半身が陰である人間は立った状態もしくは座った状態でこそ、天と地の位置関係にかなっているわけです。
検証では、座った状態、斜め四十五度、寝た状態の姿勢で行いました。検証の結果、座った状態と寝た状態では、脉波計の振幅に差が見られたのです。
この振幅の大小が西洋医学的に見てどのようなものを示すかは、西洋医学の見解を待たねばなりませんが、その違いには何らかの生体変化が現れているはずです。現段階で言えるのは、寝た状態と座った状態では、違う脉が現れていることがあるということです。
座った状態と寝た状態では、現れる脉に生体反応の違いを示す何らかの違いがあるということが、検証できたのです。妙鍼堂では陰陽の法則に法った座った状態での脉診を診察の根幹としています。ですので、我々が確実な脉をとるために、座った状態での脉診にどうぞご協力ください。